大工とチョコレート、業界はまったく別です。それでも、絶対に一緒に仕事をしたいと思った人がいました。サノケンです。
FMフジで毎週水曜19時に放送されている「サノケンbuild of life」。地元・山梨をこよなく愛する大工、サノケンが、日々の山梨ライフの中で見たこと、感じたことを、大工と音楽の融合というテーマで届けるトークバラエティー番組です。
熊鰹商店の店主、小林さわさんの紹介で、このラジオに呼ばれたのが、サノケンとの初対面でした。大工とチョコレート、業界はまったく別です。それでも、新しい豊かさをどう提供するか、という価値観の部分で、深く意気投合したのを覚えています。色々な形で出会った人と、仕事を通してまたつながっていく。それはとても幸せなことですが、サノケンとは絶対に一緒に仕事をしたいと思っていました。
もともと、今のいとまのカフェ・ショップは、外観からバチバチにかっこよく仕上げる計画でした。サノケンと話し合いながら見積もりを作ってもらい、銀行に持っていきました。
しかし銀行から告げられたのは、持ち家ではない物件にこの金額をかけることは許可できない、改装費を半分に抑えなければ融資はできない、という条件でした。この時期、サノケンには多大な心配と配慮をいただきました。
夢だった「バチバチにかっこいいショップ」のリノベーションから、予算に間に合わせるための試行錯誤が始まりました。外観の変更はすべてキャンセル。ガラス越しに工房を見せるアイデアも諦めました。トイレとエアコンはポケットマネーでなんとか間に合わせました。
つらい選択の連続でしたが、今回の工事ですべてを理想通りにするのではなく、数年後に第2期工事を行って完結させる、という考え方に切り替え、なんとか予算を半分に収めて、融資が下り、工事が始まりました。

工事初日、床を剥がす作業の日。私とサノケン、佐野工業の職人さんが揃い、まずはいらないものを剥がすところから始まりました。予算の都合で、天井は剥がさずそのままにする、という打ち合わせだったはずでした。ところが現場を見渡したサノケンが、「創くん、天井取りましょう!そのほうがよくなります!」と提案してきたのです。ああ、サノケンに頼んでよかった。そう思った瞬間の一つでした。
いとまのショップ名は「いとま chocolate & ice cream」といいますが、この店づくりには設計士が入っていません。大工が実物を見ながら、最適なしつらえを一つひとつ決めていくという作り方でした。だからこそ、施主のOKが出ないと後から話が変わってしまう。私の工事中の仕事は、サノケンが「こう作ろう」と考える隣にいて、「わかりました。その作りでお願いします」と伝えることでした。
工期中の日々は、本当に楽しい毎日でした。毎日サノケンと話し合い、どうすればお店がかっこよくなるかを考える。人と協業する上で大事なのは、自分の思い通りを通すことではなく、他者から出るアイデアと自分の発想を融合させることだと考えています。サノケンとお店を作る時間は、最高でした。
印象的なエピソードがあります。自分はモールテックスの左官仕上げで、土間の延長のようなカウンターを作りたいと提案しました。サノケンの答えは、「創くん、ちょっと古いです」。業界にいる人にしかわからない空気感を、はっきりと教えてくれました。結果、カウンターはステンレスの天板にポリカーボネートのスケルトンという、めちゃめちゃかっこいい仕上がりになりました。

工事の途中、サノケンがニューヨークに出張していて、帰ってきてからニューヨークのニュアンスが色濃く出始めたのには笑いました。唯一、NYスタイルでテーブルを20センチ四方の極小サイズにしよう、というアイデアだけは却下させてもらいました。表の看板、左官でラフに仕上げた黒い下地は、もろにNYの影響を受けています。

完成した内装は、半分を白く新しく作り直し、半分は古い壁面や天井をそのまま残した作りになりました。ポリカーボネートの壁と、スケルトンで見える柱の軽さ、ステンレスを多用した、めちゃめちゃかっこいい空間に仕上がっています。
机は欅の一枚板です。知り合いの伐採屋さんから譲り受け、地元の製材屋さんで板にしてもらったものを、DIYで磨いて机に仕立てました。椅子は、フランスのデザイナー、グザビエ・ポシャールによるマリーンチェア。そのリプロダクトが、なぜかテンポスにありました。
ゆっくりくつろいで、アイスを食べてチョコレートを選ぶ。そんな体験を提供できていたら嬉しいです。サノケンとの共作を、ぜひ隅々まで見てみてください。
